明けがたに御所に参る。
いまだ格子戸(※蔀戸※)を上げていない。
先達が参って御拝所を設ける。
近臣の人々がいまだ出てこない間に、早出して先駆けする。
秋津王子に参る。春宮権太夫(※とうぐうごんのだいふ、ここでは藤原宗頼、1154年〜1203年※)が参会する。
また山を越えて丸王子(※万呂王子※)に参る。
次にミス山王子(※三栖王子※)、次にヤカミ王子(※八上王子※)、次に稲葉根王子〔この王子は五躰王子に准じて事ごとに分に過ぎるとのこと。御幸の儀式は五躰王子と同じにするとのこと〕。
次に昼養の宿所に入る。
馬はこの場所より停めて師に預け置き、これより歩いて、石田川を徒渉し、まず一ノ瀬王子に参り、徒渉し次にアイカ王子(※鮎川王子)に参る。
川の間は紅葉の浅深の影が波に映じて、風景が素晴らしい。
〔川の深い所は股まで及ぶが、袴をかかげないのとのこと〕
次に、ごつごつして険しい山を登り、瀧尻宿所に入る。
川瀬の音が岩石を犯すような瀬音のなかにある宿所である。
夜に入って歌題をくださる〔使者が遅れて来るとのこと〕。
すぐにこれを詠じ持参する。
例の如く披講の間に参入し、読み上げ終わり(題又参入し、これを読み上げる)退出し、この王子(※滝尻王子※)に参り宿所に帰る。
河辺落葉
そめし秋をくれぬとたれかいはた河
またなみこゆる山姫のそで
紅葉に染まった秋を終わったと誰が言ったのか。石田川の波の上を過ぎて流れていく落ち葉が山姫の着物の袖のようだ。
旅宿冬月
たきがはのひびきはいそぐたびのいほを
しづかにすぐるふゆの月かげ
流れの速い川の響きはいかにも急いでいるが、急ぐ旅の庵を静かに通り過ぎる冬の月の光。
一寝した後、輿に乗る。
(輿かきの装束は師に送る事)
〔師の指図した力者は12人。予はこれを指示する。
件の法師たちの裝束12人分を揃えて師に布施として送った。紺藍摺(こんあいずり)の上着ばかりである。頭巾も同じく揃える〕
今夜、昼養の山中の宿に着く。
ここはまた不思議で奇異な小屋である。
寒風がはなはだ堪え難い。